出張ホストのお客様のニーズが、とても多種多様である事は、何度かお話ししてきました。
そのつどお客様のニーズをとらえ、それにおこたえし、満足して帰っていただく―――それが出張ホストの仕事です。
そして出張ホストでは、とんでもなく個性的なお客様にも、時にはお会いする事ができます。それに上手く対応していくことも、大切な仕事のうちです。今回はあまりに個性的でパワフルなお客様と、お相手したホストの事例をお伝えします。
◆体験談「熱狂プロレスファンのお客様」（京都府・２２歳）
「指名を受けて、待ち合わせ場所に向かったんですが、そのお客さんは普通に明るい女性で、可愛らしい感じの人でした。僕を見つけると笑顔で手を振ってくれて、『ああ、いいお客さんみたいでよかったな』と思ったんです。
そしたら彼女、会うなり僕に紙切れを見せて『これ、いまから行くけど、いい？』って言いました。それはプロレスの試合のチケットで、『新日本プロレス』って書いてあるんです。ああ、プロレスファンの人かぁ……って、深く考えずに彼女について行きました。
僕自身は、たまに格闘技とかＫ－１とかはテレビで見てましたけど、プロレスはあまり知らなくて……どんな反応すればいいのか、ちょっと不安でした。会場に着いたら、意外と若い女性客が多いんだなって思いました」
「彼女のもっていたチケットは、リングサイドの前から２列目でした。たぶん７０００円くらいの席でしたから、２人分で１４０００円ですよね。出張ホスト代のうえに、そんな高いお金出してもらって、大丈夫なのかって思いました。ましてや僕、プロレスファンじゃないのに。
それで、いざ試合を見たら、結構面白かったんですよ。格闘技とはちょっと違うというか……ときどきアクションが大げさだったり、よけられるキックとかをわざと喰らってる感じはしたけど、これはこれで面白いと思いました。なんというか、戦隊アクションモノの、もっとスゴイやつ……みたいで」
「彼女は比較的落ち着いて、プロレスを楽しんでいたんですけど、６番目か７番目の試合に金髪のマッチョ系レスラーが出てきたんです。
そしたら彼女が、いきなり立ち上がって絶叫するんですよ。
『タナハシ～～～！』
……って。
その金髪マッチョのレスラーは『タナハシ』という人で、人気のレスラーのひとりだそうです。彼女はリングに入ってくる『タナハシ』に猛スピードで駆け寄って、他のお客さんと一緒に『タナハシ』をもみくちゃにしていました」
「もう『タナハシ』の試合のあいだ、彼女、ずっと泣いてるんですよ。正直、僕には理解できない世界だったけど、中年女性が韓流スターに熱狂しているのに近いのかなって思いました。
彼女にはその後、もう一回指名してもらえたんで、その時は僕も多少はプロレスの予習をして行きました。そしたら彼女、僕の勉強熱心さを認めてくれたのか、継続的に指名してくれるようになったんです。リピーターが増えたのはありがたい反面、高額なチケット代は申し訳ないなと思うのですが……来週もまた、彼女のプロレス観戦にお供する予定です」
◆解 説◆
かなり個性的なお客様ですが、あり得るパターンです（プロレス観戦というのはレアケースですが、お客様がコンサートなどのチケットをご用意くださることは、時々あります）。
この事例からは、大きく２つのことが学べると思います。
特殊な例でも受け止める柔軟力
この出張ホストさんは、プロレスのことをまったく知らず、興味もありませんでした。それでもお客様に近づこうと、彼なりに未知の世界に歩み寄り、信頼を得ることに成功しています。
プロレスはめずらしい例ですが、お客様がコンサートや展覧会などのチケットをご用意くださり、一緒に観にいくケースはよく発生します。
音楽でも、美術でも、自分のまったく知らないジャンルと出会うかもしれません。
そんな時、無関心なジャンルだからといって、つまらなそうにしていてはいけません。
むしろ「自分の視野を広げるチャンス」と思い、新たなジャンルとも積極的に向き合いましょう。そうすればお客様との関係がスムーズになりますし、あなた自身の成長にもつながります。
どんなお客様も、あなたとはちがう「世界」を持っています。それを理解することが、お客様と関係を深める第一歩なのです。
お客様に合わせるための事前準備
この出張ホストさんは、この女性から２回目の指名をもらった際、プロレスの予習をして行きました。お客様をより上手く接待できるよう、彼なりに努力して事前準備をしたわけです。
仕事前に、可能な限りの備えをしておく事は、成功のために必要なのです。
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